不動産コンサルタント 大野レポート No.12
タカラ塾
2007年09月16日
サブプライム危機とは?
昨日、インテックス大阪で㈱全国賃貸住宅新聞社主催の住宅フェアーにて、友人の奨めで米国ロスアンゼルスから来日された㈱NPプロパティマネジメント代表の奥田“サム”貞沖氏の「米国流PM業務セミナー」を聞いた。
奥田氏は米国在住31年、米国特にカリフォルニアで25年以上不動産管理業務に従事され現在も第一線で活躍されています。セミナーの内容もさることながら、昨夜夕食を共にしながら歓談した中に、重要なヒントがあるように思いました。以下は、私、大野の意見考えです。(一部、フォーサイト10月号からの転載)
米国の不動産は、サイクルビジネスで、10年かけて上昇し2~3年で調整下落し、又上昇するという流れであり、実は日本もこの数年前(2000年以降)からこういったトレンドに入った可能性がある。アメリカは2006年から住宅バブルが崩壊し、価格下落開始し、サブプライム問題が発生した。悪名高い日本の「ゆとりローン」のようなもので、低所得者層の人々に最初の2年の金利を抑えて、後の28年の金利がぐんと跳ね上がるローンの仕組みになっている。それが不動産価格の下落で融資の焦げ付きが広まっているのだ。
もうひとつの、リスクの高い融資が成り立った原動力としては、証券化の発達である。米国の住宅ローンの60%は証券化されて転売されており、サブプライムローンにおいても、リスクを制御できているという幻想をみんなが持ったことで、結果的にリスクの総量が膨れ上がり、住宅バブルが巨大化した。そのバブルが崩壊したことで、信用収縮が起きだしている。
実は、カネの世界ではサブプライムローンとチャイナマネーは不即不離の関係にある。中国がドル建ての金融商品から逃げ出すと、米国の債券相場は急落することになりかねないのだ。日本による大量のドル買い介入に次いで、中国による大量介入で膨らんだ東アジア地域の膨大な外貨準備が、米国債の安定的な消化先となり、米長期金利を低位に安定させてきた。そのメカニズムにひびが入ったのは今年4月だった。
米議会で強まった中国叩きに業を煮やした中国が、外貨準備で運用していた米国債を僅かながら売りに転じたのだ。効果はてきめん。「パンダ(中国)売り」に米国債権相場は値崩れを起こした。今から振り返ると、それによる長期金利上昇が、サブプライム関連の証券化市場にとって「重荷を積んだラクダの背骨を折る最後の一本の藁(ラスト・ストロー)」になった。グローバリゼーションの機軸に位置し、世界を牛耳っているかに見える米国(パックス・アメリカーナⅡ)も、その実態は海外からのマネーの流入によって支えられている。
米経済が来年にかけて一段と減速するようだと、米国抜きでも世界が回るという、ここしばらく経験したことのない局面が到来するかもしれない。その逆に、米国外の世界も実は米国に間接的に相当に依存していたことが判明し、世界全体が息切れするという局面が到来することも考えられる。未来は神のみぞ知るだが、世界的な金融動乱で日本などの金利引き上げが遅れ、米国が利下げに転じることは、十分に考えられる。
米欧を中心に「金融市場ではサブプライムローンの損失をはるかに上回る損失が出ている」(バーナキンFRB議長)だけに、各国は金融の蛇口をしばらくじゃぶじゃぶに緩めておくことほかない。その結果、世界的にみれば、カネ余りの状況が続くことが考えられる。グリーンスパン時代のバブル転がしをここで止めると、世界経済がもたない。こんな「不都合な真実」を受け入れるなら、誰かがバブルを引き受けなければならない。
80年代後半は日本の不動産バブル、90年代後半は米国のITバブル、2000年代は同じく米国住宅バブルだったとすれば、これから本格的な新興国のバブルなのだろうか。その場合には、経済とマネーの重心は新興国に移り、ロシアや中国の首脳たちのワガママにも耐えなければらない。
もちろん、その正反対のシナリオを描くのも可能であるが、贅沢の味を覚えてしまった新興国の人たちが簡単に停滞の時代に戻るとは考えにくい。彼らのパワーの増大を所与のものと認識したうえで、政治と経済、そして投資のポートフォリオ(運用戦略)を描かなければならない。参院選の結果と今回の首相の唐突な辞任によって、政治が脳死状態に陥った日本を尻目に、世界は煮えたぎる動乱の時代に入ろうとしている。
タカラ塾塾長 大野 哲弘